TITLE: プロジェクト・ヘイル・メアリー (Project Hail Mary)
AUTHOR: アンディ・ウィアー (Andy Weir)
TRANSLATOR: 小野田 和子
PUBLISHER: 早川書房
プロジェクト・ヘイルメアリーはSF小説のひとつ。
主人公が宇宙船で目を覚ますが記憶が不確かな状態だった。記憶の回復と共に明らかになる任務と過去、現在にて次々と発生する事態の解決を目指していく。
SF小説に見せかけた痛快な科学冒険小説。
ネタバレになりそうなところは伏せつつ感想レビュー
映画化された”プロジェクト・ヘイルメアリー
プロジェクトヘイルメアリーは映画化されています。
が、映画化にさいしては一本の映画に上下巻が収まってしまっている以上、取捨選択や映像化にあたって出来なかった要素や変更された要素も生まれている事も想像に難くない。
映画を見る前に、一切の予告を見ず、小説を読むのも一つの手といえる。
これは原作至上主義者の嫌がらせでは全くなく、先入観が一切ない状態で楽しんでほしいという本作の読者が未読の人たちに向けた祈りに近い。
なので敢えて予告編の動画リンクとか……埋め込んだりしません。
SF小説というジャンルの読みにくい”印象”
小説といっても色々なジャンルがある。その中でもSF小説は比較的ニッチなジャンルではないか。
もっとも、この時代において小説以外の娯楽が充実しているから……小説自体がニッチなコンテンツかもしれない。ライトノベルやネット小説まで目を向ければSF的な設定を抱える作品は少なくないから、そんなことも無いと言われるかもしれない。
それでもSF小説はどちらかと言えばめんどくさく気難しい内容の作品も多いように思う。
いわゆるハードSFでは”軌道計算”つまり惑星の重力やその衛生軌道で位置を取るために必要な諸要素(エンジン推力や燃料重量とか燃費とか)の計算がある程度正確だったりする。ヘイルメアリーも数字はある程度正確に設定されているし、作中でも計算は何度か行われたシーンがある。
設定の緻密さや計算は正直なところ、興味のない読者にとってはあまり意味がない。
計算以外でも工学方面の単語群もいきなり目にしても理解しきれない事もある。
さらに……SF小説は突き詰めた筆者の指向や思想、ディストピア的だったりアポカリプス的な世界観が強い物は結末の後味が悪かったりして人を選ぶ可能性や読み進めていく中で”読感”の悪さ、読みにくさにつながってしまう可能性もある。
これらはSF小説のいい所でもあり悪いところでもある。
世界観や読書感の悪さはSFに限ったことではないが、SFではよくあるお約束の諸設定や雰囲気も加わるのだから、なかなか面白い小説でも、紹介しても読み切ってもらえない事がままある。
ファンには怒られそうだが、三体シリーズは読みにくいSF小説の代表例と言いたい。
感想:プロジェクトヘイルメアリーは軽快で読み易い冒険小説
前述した読みにくいSF小説のなか、プロジェクト・ヘイルメアリーは格段に読み易い。
”驚くほど格段に読み易い”これは主観にしかならないにしても、一人称がベースの文体はライトノベルでもよく採用されるし、SF小説にありがちな諸要素も、必要な範囲で、ある要素は次の為に使える物だとさらっと分る作りでストレスフリーに理解できてしまい、それが読書感を妨げない。
中学生程度でもイケそうな”テスト範囲”を限定しているようなやさしさが本書から感じられるし、どことなくそれは著者によって意図されている気配がある。
本書は計算や数値面、登場する細かなオブジェクトにたいしてきちんとわかりやすい解説が為されているし、主人公のリアクションや登場人物のリアクションの結果、凄い物はすごい、良くない事は良くないと分るようになっている。
――以下引用――
「なんてことだ」頭がくらくらした。「一七ナノグラム……掛ける九掛ける一〇の一六乗は……一・五メガジュール!」 ぼくはドサッと椅子にすわりこんだ。「まさか……いやあ……ワオ!」 「わたしもまさにそう感じたよ、ああ」 質量変換。かの偉大なるアルベルト・アインシュタインはかつていった──E=mc2。質量には途方もないエネルギーが秘められている。現代の核プラントはウラニウムたった一キロに蓄えられているエネルギーで、都市まるごとひとつの一年分の電力を供給することができる。そう。そういうこと。原子炉ひとつが一年で生みだす全電力は、一キロの質量でまかなわれているのだ。
――アンディ ウィアー. プロジェクト・ヘイル・メアリー 上 (pp.147-148). 株式会社 早川書房. Kindle 版――
世界観やストーリーについても、明瞭で明快になっている。
地球が危機だから一か八かの計画を立てて、主人公はその問題解決のキーマン。
記憶喪失で目覚め、少しづつ記憶を取り戻して話全貌が分かってくる。
目覚めてから直面する目前の問題と、記憶が回復してくことで分かる過去、二つの時間軸をミックスしているからテンポ感がよい、今の問題はどうなるのか? 過去は何が起きたのか、両方の先が気になってどんどん読み進めていける。
また、登場人物が多くないのも注目すべきポイントかもしれない。主人公と相方をベースに物語がすすむので、キャラクター把握に必要以上に困ることが無い。
そして主人公と相方異星人のロッキーのコンビ。二人の能力と知識のギャップを生かしたトラブルの解決。友情と自己犠牲的な献身という普遍的な価値観は三体のような情報格差から発生する読みあい、疑心暗鬼と相互に相互を克服しようとするゲーム理論といったものではない。友人を助けるという形で結末を迎える。
科学要素にわかりやすい解説とリアクション付きの文体と相互理解による友情。おそらくSF小説の中でもプロジェクト・ヘイルメアリーより読み易くまとまった、面白い作品はなかなかないのではないかとおもう。最高。 知っているなら教えてくれ
次に見るSFは何がいい? 質問?
プロジェクト・ヘイルメアリーからSFジャンルの中でほかに面白い物を探したいなら、同じ作者の「火星の人」がおススメ。映画も小説もあります。
他方、SFジャンルのおススメや名作を教えてほしいとSFファンに聞いたとしたら”プロジェクト・ヘイルメアリー”の名前が挙がる可能性がかなり高い。プロジェクト・ヘイルメアリーをSF小説の中で最初に読んだなら、おそらく他の小説を同じような感覚を前提に読むのは難しい……気がする。
SF小説として骨太な作品として、SFジャンルなら押さえておきたい小説はいくつかあるのの本作が好き、という人には間違っても三体は進めにくい。読破すらできない可能性がある。
その上で、いくつか話題作や有名作、個人的な好みをピックアップするなら以下を選ぶ。かなり定番な選択だと思うが、名作として時間の淘汰を経た作品は大きな外れが無いのが強みだ。
次に抑えたいSF映画3選
1.火星の人(オデッセイ)
2.インターステラー
3.メッセージ
次に抑えたいSF映画3選
1.火星の人(オデッセイ)
2.インターステラー
3.メッセージ
三体は近年のSF小説の中では押さえておきたい、中国発のSF小説。
異星人との対決、技術格差に情報格差と疑心暗鬼、互が互いに克服しようと言う意識の中で続く数百年の対決構造とその結末。スケール感に圧倒される一方でその三体宇宙の世界観と結論はプロジェクトヘイルメアリーに比べると冷たく暗い物。ぜひ読破に挑戦してほしい。
もし三体シリーズを読破できたなら、おそらくどんなSFも読むことが出来るSF適合者だろう
プロジェクト・ヘイルメアリーを読んでしまったなら、最初に触れた作品で嗜好が歪んだといっていい。最初に触れた作品がほぼ最高で完璧な作品なせいでハードルが上がってしまった状態と言ってよい。満足できる作品は見つけられないかもしれない。
まだ、プロジェクト・ヘイルメアリーを読んでいないなら先に三体を読んで、挫折してからプロジェクト・ヘイルメアリーを読んでも遅くはないかもしれない。
終わりに
この作品は本当に読み易いSF小説と感じる。映画を見た後でも、見る前でも、初めてのSFにはもちろんライトノベルを普段読んでいる読者や面白い小説を探している人にもうってつけの小説だと思います。
気楽に読み始めて欲しい。